あした、誰かにすすめたくなる漫画のはなし第5弾
目次
『ハロー張りネズミ』は、下町人情と時代の怪しさが同居する「異色の探偵漫画」傑作
今回紹介するのは『ハロー張りネズミ』です。
この作品をひとことで言うなら、「下町の探偵物語を土台にしながら、人情、社会風刺、ハードボイルド、さらにはSF的な味わいまで飲み込んでいくエンターテインメント漫画」です。
弘兼憲史さんの作品というと、やはり『島耕作』シリーズを思い浮かべる人が多いと思います。
ただ、この『ハロー張りネズミ』を読むと、同じ作者が描いているとは思いながらも、また違った魅力にしっかり驚かされます。
最初はどこか親しみのある“下町探偵もの”として始まるのですが、読み進めていくうちに、ただの人情話では終わらない。
時代を反映した社会性のあるテーマや、思わず「そこまで広がるのか」と言いたくなるような奇想天外な展開まで飛び込んできます。
この振れ幅の広さこそが、『ハロー張りネズミ』のいちばん面白いところだと思います。
今回は、そんな『ハロー張りネズミ』の魅力を、自分なりの視点で書いてみたいと思います。
この作品はどんな漫画か
『ハロー張りネズミ』は、板橋に事務所を構える「あかつか探偵事務所」を舞台にした探偵漫画です。
主人公は、そこに在籍する七瀬五郎。
人探しや浮気調査のような身近な依頼から始まりながら、ときには国家レベルの陰謀や国際的な騒動にまで巻き込まれていく、なんとも不思議な魅力を持った探偵です。
七瀬五郎は、いつもついている寝癖のような髪型と、夜通し張り込みを続けることから「ハリネズミ」と呼ばれています。
この愛称のゆるさがまず良いんですよね。
いかにも昭和の漫画らしい親しみやすさがあって、主人公に最初から妙な愛着がわきます。
ただ、この作品の面白さは、単なる“迷探偵もの”で終わらないところです。
下町の人情話として読める回もあれば、時代の空気を色濃く反映した社会派の話もある。
さらに、ハードボイルドな国際色のある展開や、ちょっと怪奇・SFめいた話まで飛び出してくる。
つまりこの作品は、探偵漫画でありながら、一つのジャンルにきれいに収まりきらないんです。
その自由さが、『ハロー張りネズミ』を唯一無二の作品にしていると思います。
ここが面白い
この作品の面白さは、まず「町の探偵もの」としての入りやすさにあります。
人探し、浮気調査、張り込み、聞き込み。
探偵漫画らしい定番の題材がしっかりあるので、導入として非常に読みやすいです。
でも、そこから話が予想もしない方向へ転がっていく。
北方領土問題のような時代性を帯びたテーマが出てきたかと思えば、KGBやCIAのような大きな存在とも絡んでいく。
さらに、吸血鬼のような怪奇性を帯びたエピソードまで混ざってくる。
この「そんなところまで行くのか」という振れ幅が、とにかく楽しいです。
しかも、ただ奇抜なだけではなく、ちゃんと昭和から平成にかけての時代の空気がにじんでいる。
だから読んでいると、探偵漫画として面白いだけでなく、その時代ならではの世相や空気感まで一緒に味わえるんですよね。
また、携帯電話がない時代の作品だからこそ、捜査や連絡の手触りも今とはまったく違います。
黒電話、張り込み、足で稼ぐ調査。
今の便利な時代の感覚で読むと、むしろそこが新鮮です。
若い読者が読むと、「探偵ってこういう泥くさい仕事だったのか」と逆に面白く感じるかもしれません。
この作品が刺さる人
この作品は、こんな人におすすめです。
・探偵ものが好きな人
・下町人情や昭和の空気感が好きな人
・一つのジャンルに収まらない漫画を読みたい人
・社会風刺や時代背景が入った作品が好きな人
・『島耕作』以外の弘兼憲史作品も読んでみたい人
逆に、最初から最後まで本格推理一本で進む作品を求めている人には、少し独特に感じるかもしれません。
ただ、探偵漫画をベースにしながら、いろいろな面白さが混ざり合っている作品が好きな人にはかなり合うと思います。
私が特に好きなポイント
個人的に『ハロー張りネズミ』で特に好きなのは、「下町の親しみやすさ」と「話のスケールの大きさ」が同時に存在しているところです。
あかつか探偵事務所という、どこか雑多で人間くさい空気の中で話が進むので、作品全体にはちゃんと生活感があります。
でもその一方で、事件は思いのほか大きく、奇妙で、時代の暗い部分や怪しい匂いまで拾い上げてくる。
このバランス感覚が絶妙なんです。
さらに、『島耕作』シリーズでもおなじみの小暮久作、いわゆるグレさんが準主役級で登場するのも嬉しいところです。
弘兼憲史作品が好きな人からすると、「あ、この人がここでも効いているのか」と思える楽しさがある。
こういう作者作品どうしのつながりを感じられるのも、読んでいてニヤリとするポイントだと思います。
※ここから少しネタバレを含みます。
この作品は、読み始めたときには「ちょっと頼りないけれど味のある探偵もの」に見えるのに、途中から社会問題、国際情勢、怪奇趣味のようなものまで自然に混ざってきます。
それでも作品として崩れないのは、中心にいる七瀬五郎という人物の人間味がしっかりしているからだと思います。
どんな突飛な事件に巻き込まれても、どこか泥くさく、どこか情がある。
この主人公の体温があるからこそ、作品全体がただの奇抜さで終わらず、ちゃんと“読ませる漫画”になっているのだと感じます。
まとめ:なぜ今すすめたいのか
『ハロー張りネズミ』は、ただの探偵漫画ではありません。
下町人情ものとしても読めるし、ハードボイルドとしても読める。
さらに、時代風刺や怪奇、SF的な面白さまで入っている、かなり懐の深い作品です。
今読むと、携帯のない時代のアナログさも含めて、作品全体に独特の味があります。
むしろその不便さや泥くささが、今の時代には新鮮に映るかもしれません。
弘兼憲史さんといえば『島耕作』という人にも、ぜひ一度読んでみてほしい作品です。
同じ作者でも、こんなにも違う角度で面白い漫画が描けるのかと、きっと驚くと思います。
探偵漫画が好きな人はもちろん、昭和・平成の空気感や、少し変わったエンタメ作品が好きな人にもかなりおすすめです。
気になった方は、ぜひ一度手に取ってみてください。
今回は『ハロー張りネズミ』を紹介しました。
これからも「明日、誰かにすすめたくなる漫画」を、1日1作品ずつ気ままに書いていこうと思います。