ブラッシュアップライフ

『もう明日が待っている』鈴木おさむ(著)

放送作家・鈴木おさむさんが、長年携わってきた放送作家から退く――。そんなニュースを目にし、私自身は放送作家でも、有名人でもありませんが、仕事をを辞めるタイミング的に重なるものを感じ、手に取った一冊。

この本は、小説のかたちをとりながら、SMAPと『SMAP×SMAP』という番組が、どのように時代を作ってきたかを、鈴木さんの目線で描いています。

1990年代、アイドルがバラエティに出るのは“格下”と見られていた時代。そんな中、SMAPは体当たりで笑いも涙も引き受け、時には身体を張って挑戦を続けました。やがてキムタクのファッションが全国の男子高校生に真似されるほど、彼らは時代の象徴となり、番組にはマドンナやマイケル・ジャクソンといった世界の大物も登場するように。

東日本大震災直後の生放送では、失言すれば命取りになりかねない状況で、それでも勇気を出して被災者支援を訴える姿も描かれます。リスクを恐れず、時に奇跡を起こしてきた番組とSMAP。そしてその裏には、同じ信念で番組をつくってきた鈴木さんの存在がありました。

本の中で、彼はこう語ります。

ぼくはずっとやってきたこの仕事を辞めることにした。
「5人として彼らがいなくなった今、奇跡を信じて番組を作ることもほとんどなくなった。だから、いい時なのかもしれない」

これは、職種や業界を越えて、多くの社会人にとって共感できる感覚ではないでしょうか。
何かを一緒に信じて前に進める仲間がいるから、仕事は続けられる。誰かと共に作るという実感があるから、頑張れる。そう思える人たちと過ごせた時間こそが、働く上での大事なのだと思います。

やがて、SMAPは芸能事務所の派閥問題という“組織の論理”に巻き込まれ、解散へと向かいます。どんなに輝いていた存在も、組織の論理や変化の波には逆らえない。
この現実は、会社という組織の中で働く私たちにも、どこか身に覚えのある話ではないでしょうか。

『夜空ノムコウ』『世界に一つだけの花』など、数々の名曲とともに時代を歩んできたSMAP。SMAPの栄光と終焉を見つめながら、そしてまた“明日が待っている”ことに、静かに背中を押される一冊です。

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