「もう十分やってきた」からこそ抜け出せないモヤモヤ
ミッドライフクライシス――人生の折り返し地点で立ち止まり、自分の存在や未来に疑問を抱く時期。
この時期に訪れるモヤモヤや焦りに対処する方法は、自己啓発本に数多く書かれている。
「相手は変えられない」「変えられるのは自分と自分の環境だけ」――そんな教えはもう十分に理解しているし、実際に試して効果もあったと思う。
それでも、今なお抜け出せない違和感や閉塞感がある。
「わかってくれる人」の安心感がもたらす落とし穴
職場の同僚や家族、親友は、そのモヤモヤを親身に聞いてくれる存在だ。
「あの上司がさ」「あのプロジェクトがね」――そんな一言で背景も感情もすぐに伝わるから、深く説明する必要もない。
だからこそ、気持ちは軽くなる。
しかし、その手軽さが時に落とし穴になる。
「わかってくれる」安心感の中で、同じような愚痴や不満を繰り返すうちに、そのモヤモヤが逆にコンフォートゾーンになってしまう。
辛いと感じながらも、その枠の中にいる限りは大きな挑戦もなく、あえて自分の考えや感情を整理する必要もない。安心していられる場所だ。
なぜ新しい場所が必要なのか
もちろん、一人で過ごす時間も大切だ。
自然の中を歩いたり、新しい趣味に打ち込んだりすることで、心が軽くなることもある。
しかし、それだけでは十分ではない。
社会構成主義の視点で見れば、私たちの価値観や自己認識は、決して孤立した個人の中で生まれるものではなく、他者との関わりや対話を通じて作られるものだ。
これは、「私たちが自分自身や世界についてどう考えるかは、その人間関係や社会の中でどう語られているかに大きく影響される」という考え方だ。
だからこそ、新しい場所に出向き、新しい人々と出会うことが大切なのだ。
その場所では、対話を通して、自分が当たり前だと思っていた価値観が揺らぐ瞬間が訪れるかもしれない。
それこそが、自分の枠を広げ、新たな視点を得るきっかけになる。
違和感こそが新しい気づき
あるとき、対話のワークショップで知り合った方の家に招かれたことがあった。
その方はシングルマザーで、お子さんもいるのだが、住まいは整っていて、おしゃれな家具やセンスの良いインテリアが並んでいた。
そんな中でふと、「実は昔、子供の給食費が払えなかったことがあった」という話になった。
最初は、経済的に大変な時期があったのだろう推測したが、話を聞くうちに、その理由がそれだけでは無いことに、気づいた。
おそらく払えなかったのではなく、他に自分のために使うべきことがあって、あえて払わなかったのだろう。
つまり、彼女にとっては、「自分の人生も大切にすること」が優先順位として高かったのだ。
その瞬間、私はハッとした。
私なら、どんなに自分が辛くても、子供のためなら自分を犠牲にしてでも給食費は最優先で払うだろう。
そして、その価値観に本当に驚いた理由は、そういう人々がこれまで自分の周りにいなかった、「周りにいなかった」というよりは、自ら遠ざけていた、と気づいたからだ。
もちろん、そのような考え方を持つ人々の存在は知ってはいたが、どこか遠い存在に感じ、実感はなかった。自分と同じような価値観を持つ人々とだけと、ずっと付き合ってきたのだ。
しかし、もし自分を優先した働き方を選ぶ人々が周りにいれば、つまり、そういう方々とも自分が友人として関わりや対話を増やしていけば、視点は自然と増えるかもしれない。
「親に言われて行っている塾や習い事の効果は薄い」や「親も一人の人間、自分が心から望むことにこそ力を注ぐべきだ」――そんな意見にも触れる機会が増え、自分の選択肢も広がるだろう。
対話を通して感じたこの違和感こそが、新しい価値観に触れる貴重な瞬間だと感じた。
「自分が大切にした価値観、その大切にしてきた価値観こそが、今の自分を縛っているのか?それが閉塞感の真の理由なのか?」と、改めて問い直す、という気づきになったのだ。
閉塞感を破って、新しい自分に出会うために
だから、職場でも家庭でもない場所で、あなたのことを知らない新しい場所で自分の物語を語ってみる。
それは、例えばこんな場所や人々との出会いかもしれない。
- バーやカフェ – 偶然隣に座った人との何気ない会話
- ファイナンシャルプランナー – お金の話から人生観が広がる対話
- オンラインコミュニティ – 興味のあるテーマでつながる人々との交流
- 対話のワークショップ – 自分の価値観を掘り下げる機会
- メンタルコーチやカウンセラー – プロの視点から自分を見つめ直す時間
- 趣味の集まりやイベント – 共通の興味から広がる新しい関係
- 転職サービスやキャリア相談 – これまでとは異なる働き方や価値観に触れる機会
こうした場所で出会った誰かに、「どうしてその仕事を選んだの?」と聞かれたときに、ふと自分の価値観を、客観的に分かりやすい言葉で説明する必要が出てくるかもしれない。
「安定した仕事を選んだ」と言いながら、本当にそれが自分の望みだったのかと自問自答することになるかもしれない。
また、新しい趣味で知り合った人から、「どうしてそんなに子供を優先するの?」と不意に問われたとき、自分がどんな枠組みの中で物事を考えてきたのかに気づかされることもあるだろう。
こうした新しい他者との対話は、自分がこれまで当たり前だと思っていた価値観に小さな亀裂を入れ、隙間から新しい光を差し込むきっかけになる。
その光が、自分でも気づかなかった新しい自分や、忘れていた情熱を呼び覚ますかもしれない。
コンフォートゾーンから一歩踏み出し、新しい場所や人々と出会うことは、最初は違和感だらけかもしれない。
しかし、その違和感こそが新しい気づきの種であり、自分の世界を広げる一歩だ。
その一歩が、ミッドライフクライシスを抜け出すための強力な推進力になるのだろう。