「これ、まだ使えるから誰かにあげようかと思って」
「新品だからもったいないし、あの人に渡そうかしら」
家の中に溜まったモノたち。もう自分では使わないのに、なかなか捨てられない――そんなとき、親世代が口にするのが「誰かにあげよう」という言葉です。
しかし、この“誰か”が本当に必要としているかは分かりません。むしろ、もらった側にとっては負担になることもある。それでも、「もったいないから」とモノを回そうとする背景には、いくつかの心理的な要因があります。
■ あげたくなる心理1:返報性の文化と関係の維持
社会構成主義の観点から見ると、「返報性の原理」も単なる心理現象だけではなく、社会の中で作られた価値観の一部です。何かをしてもらったらお返しをする、という習慣は、コミュニティの結びつきを強化するために形づくられてきたものです。
つまり、モノをあげることには**「感謝されたい」「関係を保ちたい」という欲求**があり、それは長年の人間関係や社会的期待に根ざしています。新品を渡す場合、より強い満足感や自己効力感を得やすいのは、その背景に「価値あるものを贈る」ことが善とされる文化的な影響があるからです。
■ あげたくなる心理2:罪悪感と「もったいない」の社会的意味
「捨てるのはもったいない」「まだ使えるのにゴミにするなんて」という感情も、個人の価値観だけでなく、世代や地域に根付いた倫理観が反映されています。特に、戦後の物資不足や「モノを大切にする」文化が強い親世代にとっては、この感覚はさらに強いものです。
しかし、この「もったいない」という考えは、他者に対する配慮であると同時に、「捨てること」への罪悪感を他人に転嫁する行為でもあります。つまり、「私は捨てられないから、あなたが使って」という形で、モノの価値を他者に預けているのです。
■ あげたくなる心理3:世代間の価値観の違い
親世代にとって、モノを贈ることはコミュニケーションの基本でした。お歳暮やお中元、旅行のお土産といった贈り物は、関係性を維持し、強化するための社会的な儀式でした。
一方、若い世代はSNSやメッセージアプリで「見たよ」「いいね」を送り合うことでつながります。物理的なモノを介さなくても、共感や反応を通じて関係を築ける時代です。
そのため、若い世代には「これ使って」は時に重荷になりがちです。
つまり、モノをあげる行為は、親世代には**「思いやり」でも、若い世代には「負担」**になることがあるのです。これは、単にモノに対する価値観の違いだけでなく、関係の築き方そのものが異なることを反映しています。
■ 対処方法:どうすればいい?
- モノの行き先は“需要のある場所”へ
親が「誰かにあげたい」と言ったときは、メルカリやリサイクルショップ、買取専門店、寄付団体など、欲しい人が確実にいる場を紹介するのがおすすめです。「誰かにあげる」より「必要な人に届く方が気持ちいいよ」と伝えることで、納得してもらえる場合があります。
- 感情的になりすぎない工夫を
家族だからこそ、つい感情的になってしまうものです。「またそんなこと言って…」と否定する前に、客観的な第三者(福祉施設、知人、地域の支援団体など)に話を通すと、冷静な視点が入ることで納得を得やすくなります。
- “あげたい気持ち”を受け止める余地も残す
「あげる」という行為には、その人なりの善意や自己肯定感が含まれています。これを全否定してしまうと、「役に立ちたい」という気持ちを傷つけることになりますます意固地になるかもしれません。
「ありがとう、気持ちはうれしい。でも今は必要ないから、他の人が使えたら素敵だね、買取専門店やリサイクルショップに来てもらって見てもらおうか」等の声をかけて、
感情を否定せずに行動を調整することが大切です。
■ おわりに:モノは、社会的関係の象徴
「もったいない」「誰かに使ってほしい」という気持ちは、ただの善意ではなく、その人が培ってきた社会的な価値観の一部です。しかし、受け取る側の気持ちや状況も大切にすることで、より健全な関係が築けるはずです。
モノはただの物質ではなく、人と人をつなぐ象徴的な存在。だからこそ、それをどう扱うかは、単に個人の心理に由来する「個人的な選択」ではなく、「文化や社会的な規範が作り上げた」もの、**「どんな関係を築きたか」**という問いでもある、と考えると、親の言動を理解しやすいかもしれません。