先日、銀座を歩いていてふと目に入ったのは、ルイ・ヴィトンやシャネルと肩を並べるように構える「コメ兵」の店舗でした。
高級ブランドが立ち並ぶこの街に、リユース(中古)品の専門店が違和感なく存在していることに、時代の価値観の変化を感じました。
リユースは“昔からある文化”だった
日本では江戸時代、紙くずや古着などを扱う「くず屋」や「古着屋」が身近な存在でした。
当時はモノが高価だったため、自然と「長く使い、誰かに譲る」という文化が根付いていたのです。
ヨーロッパでも、中古の道具や衣服を再利用するのはごく当たり前のことでした。
つまり、リユースは「新しい考え方」ではなく、人類にとって普遍的な知恵だったとも言えます。
大量生産と豊かさの影で、リユースは一度“忘れられた”
しかし、戦後の高度経済成長期には、新品が簡単に手に入るようになりました。
この頃から「中古品=貧しさの象徴」というイメージが定着し始めます。
その裏で「質屋」や「リサイクルショップ」といった存在は細々と残り続け、静かにリユースの文化をつなぎ続けていました。
再び注目されるリユース——90年代以降の変化
1990年代に入ると、「中古品」に対する見方が徐々に変わり始めます。
この変化の立役者が、信頼性の高いリユースチェーンの登場でした。
- ブックオフ(1990年)
- ハードオフ(1993年)
- コメ兵(リユースに本格参入は1990年代)
それまで「中古=貧しい、品質不安」と思われていた感覚が、「ちゃんと選べばお得で賢い」に変わり始めました。
テクノロジーが変えた“所有”の意味
2000年代以降、インターネットとスマートフォンの普及により、メルカリ(2013年)などのCtoCプラットフォームが登場。
誰もが気軽に中古品を売買できる時代がやってきました。
さらに、音楽・映像・洋服など、あらゆる分野で「サブスク」が普及。
“自分で持つ”ことの意味が薄れ、「TPOに合わせて利用すること」が重視されるようになっていきます。
リユースが“選ばれる”理由
かつて「一生モノ」として大切に使い続けるという考え方が主流でしたが、現代では人の好みやライフスタイルが変わりやすくなり、その概念は崩れつつあります。
また、多くの人が「モノをたくさん所有すること=幸せ」ではないと気づき始めており、所有欲だけでなく、必要なものを必要なだけ持つことの価値が見直されています。
さらに、テクノロジーの進化によって、本や音楽、映画、洋服などがサブスクリプションで利用できるようになったことで、「所有すること」の意味自体が問い直されています。
そして、リユースチェーンの登場により、誰もが気軽に中古品を売買でき、また、リセールバリューが重視されるようになったことで、新品の価格もリユース市場を前提にした価格設計が可能となり、消費者にとってより合理的で持続可能な選択肢が広がっています。
所有から循環へ——リユースが映す新しい価値観
かつては「中古=仕方なく選ぶもの」だったかもしれません。
しかし今は、“自分の価値観を表す選択のひとつ”として、中古品を手に取る人が増えているのかもしれません。
所有と消費が中心だった時代から、「循環」と「共存」へと価値観は変わり始めました。
“いいモノを長く使う”という美徳に加えて、
“モノを循環させて、価値を次につなぐ”という視点。
それこそが、現代のリユース市場の本質なのかもしれません。
銀座の街に並ぶコメ兵の店舗は、その新しい価値観の象徴のように、静かに、しかし確かに存在していました。