ニューベリー賞(アメリカで最も歴史と権威のある児童文学賞)を受賞(1994年)し、映画化(2014年)もされた作品です。
物語の中心にあるのは、「Pain」が取り除かれた世界、そこでは人々は苦しみを知らずに生きていますが、その代償として「Love」もまた存在しません。
主人公の少年は、ただ一人「記憶(memories)」を受け取る役割を担い、悩みや不安、喪失、恐怖といった、人が生きるうえで避けられない痛みを初めて知ります。
同時に、家族と過ごす時間や幸福、祝祭の日々、そして愛(family, happiness, holidays, love)の記憶も受け取っていきます。皆が痛みや愛を知らずに生きる代わりに、そのすべてを一身に引き受ける存在になるのです。
主人公が 「記憶(memories)」として受け取るpain には、戦争や寒さ、怪我といった身体的な苦しみと、愛する人を失う悲しみ、孤独や不安、世界の不条理を知ってしまう絶望といった心理的な苦しみが混ざり合っています。
大人になると、私たちは無意識のうちに「pain」を避けようとしがちです。傷つかないように、怒らないように、期待しすぎないようにします。
けれど、この物語が示しているのは、その逆です。痛みを消すことではなく、痛みを受け止め、乗り越える知恵と勇気を持つこと。そのとき初めて、世界はより深く、より鮮やかに、さらに広がって見える、と静かに訴えてきます。
使われている英語はシンプルで読みやすいですが、その内容は大人にも強く問いを投げかけ、また、自分が過去に受けた痛みを静かに肯定できる、そんな物語です。