「英国紳士が見たニッポン」というタイトルから、最初は少し堅くて難しい内容なのかな?と思って手に取りましたが、実際に読んでみるととても親しみやすく、思わずクスッと笑ってしまうようなエピソードがたくさん。著者クリストファー・ベルトン氏が、1970年代に日本人女性と結婚し、日本とイギリスを行き来しながら英語教師、旅行会社勤務、翻訳家として過ごした日々を綴ったエッセイです。
語学学習者として共感できる場面が随所に描かれています。たとえば、「suwatte iidesuka?」と言いたくて「sawatte iidesuka?」と聞いてしまったり、「ものしり」と言いたくて「しりもの」と言ってしまったり。頭では分かっているのに口の筋肉がついてこないもどかしさに、思わず「わかる!」とうなずいてしまいました。
特に印象的だったのが、漢字についての描写。アルファベットは意味が分からなくても読むことができるけれど、漢字は知らないと発音も意味も分からない。著者は「漢字はまるで道路標識を覚えるみたいだ」と表現していて、そのたとえに思わず納得。
私自身、日本語を漢字で覚えているからこそ、「座っていい」と「触っていい」が音として近いという感覚には、言われるまで全く気づきませんでした。新しい視点をもらえたような気がします。
本書に出てくる英語には難しい単語がほとんど出てきません。自分が知っている基本的な英単語だけで、こんなにも日本の文化や日常を豊かに表現できるのか、と感動しました。これは英語多読を始めたばかりの方にとって、すごく勇気づけられるはずです。
描かれている時代背景には、新聞を紙で読む、テレビで『8時だよ!全員集合』を見る、といった懐かしい描写もありますが、それもまた味わいのひとつ。時代は違えど、語学を学ぶときの戸惑いやむずかしさ、間違える恥ずかしさ、面白さは変わらないんだなと感じさせてくれます。