– 64歳で人生を立て直した男の実話 –
スターバックスという、誰にとってもなじみ深い場所を舞台にしたこの物語は、読みやすい文体ながらも、実は内容はとても深く、心を打たれる一冊です。
主人公は64歳の元広告マン。ニューヨークの裕福なエリアで育ち、名門イェール大学を卒業、大手広告代理店で長年成功を収めてきました。しかし突然リストラされます。しかも、その解雇を告げたのは、かつて自分が引き上げた女性部下。今や彼女は役員の立場にいました。栄光のキャリアの終わりは、予想以上に冷酷なものでした。
人生のどん底にいた彼が再び働き始めたのは、なんとスターバックス。店長は28歳の黒人女性・クリスタル。まったく異なる世代、文化、価値観のなかで最初は戸惑いながらも、気づきを得て、現実を受け入れ、(エリートと思い込んでいた)自分の殻を破り、次第に「自分が本当に必要とされ、貢献できる」ことの喜びを感じ始めます。
印象的なのは、従業員向けの社内フォーラムでのエピソード。クリスタルが表彰を受ける場面では、参加者全員が心から拍手し、彼女の努力を讃えます。主人公はその光景に感動します。かつて自分がいた広告業界では、表彰の場も形式的で、どこか競争や嫉妬の空気が漂っていた。でもここでは、違った。お客様だけでなく、同じ従業員同士の間にもリスペクトがあり、人が人として大切にされている。その空気に、主人公は救われていきます。
“I hate to think that my whole life had been a lie. But I had to admit that I felt great relief in the different life I had now. My heart was full of a happiness I had never known before.”
「これまでの人生がすべて嘘だったなんて、思いたくない。でも、今のまったく違う暮らしに、大きな安堵を感じていた。そしてこれまで知らなかった、本当の幸せで胸が満たされていた。」
本書は、スターバックスという身近な舞台で繰り広げられる実話ということもあり、英語多読にもおすすめです。ただし、ページ数はやや多めで、少し難しめの語彙も出てくるため、ある程度英語の多読に慣れてきた頃に読むとちょうど良い一冊です。読後には、「働くとは」「幸せとは」何かについて、自分自身に問いかけたくなります。