介護と相続――家族の中でもっとも繊細で、そしてときに残酷なテーマを扱った一冊。
著者は、親の介護に長年向き合ってきた。その誠実な姿勢には胸を打たれるものがある。
だが、衝撃的なのは、その先に待っていた「相続」の現実だ。
兄弟姉妹の関係は、想像以上にあっけない。
実の親子の縁は切れず、夫婦でさえ簡単には離婚できない。
ところが兄弟姉妹は、相続を巡って一方が弁護士を立てた瞬間に、直接のやりとりが一切できなくなる。
かつて同じ家で育ち、人生の多くの時間を共に過ごした存在でも、
相続を巡る局面では、弁護士を立てたという事で、関係は“事実上の三行半”となってしまう。
調停、そして訴訟へ――そうなれば、もう引き返せない。
弁護士を立てるという行為そのものが、**兄弟姉妹関係の“終わりの合図”**にもなり得る。
戦前に存在した「勘当」は制度としては消えた。
けれども、いったんこじれた兄弟姉妹の関係は、もう覆水盆に返らず、なのかもしれない。
だからこそ、いきなり弁護士、となってしまわないように、ふだんから気軽に連絡を取り合える関係値を保っておき、相続についても親が元気な間に、一緒に話し合っておくことの大切さを、あらためて感じさせられた。