経済思想家・斎藤幸平さんが、あえてデスクを離れて「現場」に出た体験を綴ったエッセイ集。それがこのユニークなタイトルの本です。
でもページを開いてみると、タイトル以上に面白くて、ちょっと切なくて、考えさせられることばかりでした。
ウーバー配達で感じた「自分ってロボット?」という違和感
アプリの指示に従って、ただ商品を届ける。スキマ時間で誰でも働けるウーバー配達の「気軽さ」は確かにあるけれど、斎藤さんはある瞬間にふと思います。
「自分の思考は必要なくて、まるでロボットみたいだ…」
便利さの裏で、“自分の存在感”がどんどん薄れていくような感覚。効率的で合理的な働き方に見えるけれど、そこには“人らしさ”が抜け落ちているようにも感じられたのです。
ユニクロの「全員が経営者」は本当?
また、ユニクロでの現場取材では、「全員が経営者になれ」という理念の裏側を見つめます。
でも実際には、マニュアルが徹底され、現場スタッフに与えられる裁量はごくわずか。求められるのは「創造性」より「指示通りに動く力」。ここでもまた、“考える余地”が奪われているような息苦しさが浮かび上がってきます。
男性用メイクと「なれる自分の幅」
さらに興味深いのが、男性メイクの流行に触れたエピソード。
「男ももっと自由になっていい」「自分らしく装えばいい」――そんな前向きなメッセージの一方で、斎藤さんはこんな疑問も投げかけます。
「本当に自由なのか? それとも新しい“同調圧力”なのか?」
もしかすると、化粧品業界が作り出す新しいマーケティング戦略に、無意識に巻き込まれているのでは? という視点は、
「自分らしさ」の名のもとに、また別の“枠”に押し込まれてはいないか――そんな問いが心に残ります。
頭じゃなくて、体と心で社会を感じる時間
この本を読んで感じたのは、「社会を知る」というのは机の上の話じゃなくて、“人と出会い、現場で感じること”、「こうすべきだ!」と決めつけない、ことが大事なんだな、ということ。
華やかな言葉や理論よりも、汗をかき、違和感を持ち、涙を流したその先に、本当に大切な何かが見えてくる。
現場で見たこと、感じたことを素直に綴りながらも、それを読者にそっと手渡してくれます。