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「辞めたい」人と「辞める」人の違い、〜社会構成主義と社会心理から考える

■「辞めたい」は日常会話の一部

職場のあちこちで、「もう辞めたいよね」「うちの会社、もうダメかも」という声が聞こえてくる。

口にする人と、実際に動く人。その差はいったいどこにあるのだろう?

■「語り」の中でつくられる“自分”

社会構成主義という考え方がある。
それは、「現実」や「自分らしさ」は、個人の内面ではなく、他者との会話や関係性の中でつくられていくという視点です。

この視点から見ると、「辞めたい」と口にする人は、
不満を語ることで、“悩みながらも頑張っている自分”というストーリー周囲と共有していることになる。

その語りにはある種の安心があり、会社に居続ける自分を支えている“物語”でもある。

■ 「集団の空気」による「辞めない仲間」としての絆

社会心理学の観点では、もう一つの側面が見えてきます。
それは、集団内の同調圧力です。

特に日本の職場では、
「辞める」という行為が、「裏切り」や「逃げ」と受け取られることがある。
だから、「辞めたい」と言いながらも、
「自分だけ違う道に行くこと」への不安が勝ってしまう。

また、職場内で不満を共有することで、
「辞めない仲間」としての絆が深まってしまう paradox(逆説)もあるのです。

■ 一方で「辞める人」は、別の物語を生き始めている

辞める人にも迷いはある。だが彼らは、
「転職を考えている人との会話」や「辞めた先輩の話」などを通して、
“辞めたあとの自分”を想像し、社外で語り始めている。

つまり、「変化すること」を社外の周囲との関係の中で肯定的に構成し直しているのだ。

■ リスクを取ることを肯定してくれる関係

例えば、会社とはまったく関係のない趣味の仲間。
あるいは、すでに会社を飛び出して自分らしく生きている友人。
そういう人たちが、無責任に背中を押すのではなく、
自分の経験を語りながら、変化することのリアルな豊かさや怖さを教えてくれる。

「辞めたい」と思ったとき、まず多くの人が最初に頼るのは、転職サイトやエージェントかもしれません。
もちろんそれも大切なステップですが、それだけでは不安は拭えない。
なぜなら、エージェントとのやりとりはあくまで**“条件”をすり合わせるための場**だから。

でも、人がほんとうに動き出す瞬間というのは、条件が揃ったときではありません。
それは、「変わってもいい」「失敗してもあなたはあなただ」と言ってくれる人たちと出会ったとき。

■ 「変わることを語ってもいい空気」をくれる人たち

人は「変わることを語ってもいい」と感じ、語り始めた時、ようやくその未来にリアルな実感を持ち始めます。
それまでは、どこか頭の中だけの話で終わってしまう。

「辞める人」は、たいていこの段階を経ています。
“変化の物語”を、自分の言葉で語り始め、それを受け止めてくれる人たちに出会っている。

それは、いつもと違うバーでたまたま出会った人たちかもしれない。
新しい趣味を始めたときに出会った仲間かもしれない。

こうした“新しい場所”には、これまでの自分とは少し異なる価値観を持つ人たちが集まっていることが多い。
そういう場所に身を置くと、自然と
“自分はなぜそう思うのか”**を言語化する機会が増える
これは、長年の関係値があって、あうんの呼吸が成立する職場仲間や家族関係とは違う環境です。
そこでの対話は、自分の内面を今までより丁寧に掘り下げるきっかけになる。

この「語る」という行為こそが、未来への一歩になるのです。
誰かに語り、その語りを受け入れてくれることで、それを繰り返すことで、初めてその未来が現実のものになっていく。
だからこそ、そうした新しい場所に少しだけ踏み出してみることが大切なのかもしれません。

■ 違いは、たったひとつの関係性

結局、「辞めたい人」と「辞める人」の違いは、
自分の語りを変えられる関係性を持っているかどうかにあります。

  • 辞めたい人は、「いまの職場で悩む自分」を肯定する語りの中にいる。
  • 辞める人は、「新しい場所へ向かう自分」の語りを許してくれる人たちと出会っている。

この違いは、内面の強さではなく、新しい場所・人たちに出会い、自分の内面を丁寧に語る関係の中で育まれる勇気なのかもしれません。

「辞める決断」とは、孤独なようでいて、実はとても社会的な営みです。
誰かと話し、誰かと悩み、誰かの言葉によって、私たちはようやく“次の一歩”を踏み出せる

もし今あなたが「辞めたい、現状を変えたい」と思っているのなら、
転職エージェントを探すことを焦るよりも先に、
「変わってもいい」と言ってくれる人との対話を探してみてください。

あなたの物語が少しずつ変わっていく、そのはじまりになるはずです。

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