社会構成主義の視点から見ると、ミッドライフクライシスは単に個人の問題ではなく、社会が作り出した物語とのズレから生まれる現象だ。**「仕事ができれば昇進できる」という物語に従ってキャリアを築いてきた人が、40代に差し掛かるとその物語が通用しなくなる瞬間に直面する。そのとき、「自分の価値は何か?」**という根本的な問いが浮かび上がる。
①キャリアの天井
- 30代では、まだ実力と成果で課長までは昇進できることが多い。
- しかし、40代になると、サラリーマンの出世競争が単なる実力だけでは無く、社内政治や人間関係に大きく左右される現実を痛感するようになる。
- 例えば、部長は20人に1人、さらにその上の役員は50人に1人といったように、ポストは極端に限られており、純粋な仕事の成果だけでは届かない。
今までは「仕事ができる人」が評価されるというシンプルなストーリーが通用していたが、その物語は次第に色褪せる。
②実力だけでは通用しない現実
- 自分で営業先を開拓し、売上を伸ばして会社に貢献しても、社内闘争や派閥の力関係で成果が他の誰かに潰されることがある。
- 昇進を狙う一部の社員が、自分のポジションを守りつつ上を目指すために、誰かのちょっとしたミスを過剰に取り上げ、ネガティブキャンペーンを展開することもある。
- このような状況下では、仕事の成果が正当に評価されず、「努力しても無駄ではないか」といった虚しさを感じる。
「昇進とは実力の証」というこれまでの物語が、「昇進とは社内政治や派閥の力学を制すること」**に変わりつつあることを痛感する。
③倫理的な葛藤
- 少ないイスをめざし、先輩・仲間を押しのけて、時にはネガティブキャンペーンをしながらポジションを勝ち取ることに、道義的な疑問を抱くことがある。
- 単純に「仕事ができる人」ではなく、「社内政治に長けた人」が評価される現実に、価値観が揺らぐ。
- 誰かを理不尽に蹴落として昇進を掴んだ結果、信頼できる仲間が誰もいなくなってしまうリスクもある。
- 「このままでいいのか?」という自己疑問、これからの働き方を見直したくなる。
④体力と年齢
- さらに、体力的にも年齢的にもできることが限られてきて、若い頃のような勢いや忍耐力が失われつつあること、人生は永遠では無いことを実感する。
- 部下や後輩が成長し、自分よりも若く、体力もあり、柔軟に変化に対応できる存在として台頭してくる。
- 親が介護が必要になってくる年齢になると並行して、子供の教育費も掛かる時期に。
⑤選択の岐路
- こうした理不尽さや不条理に巻き込まれないよう、早々に諦めて総務部や経理部など、そもそも出世競争に巻き込まれにくい部署に異動し、社内の出世争いを俯瞰して見るか。
- あるいは転職や独立といった道を選び、自分の信じる価値観に従って生きるか。
- 社内で信頼できる仲間を失ってたった一人になっても出世を求めるのか。
信じてきた物語が揺らぐとき
信じてきた物語が通用しなくなる瞬間が訪れる。単に仕事ができるだけではなく、社内政治や派閥の力学、さらには上司や役員の意向に左右される場面が増え、それまでの成功体験が必ずしも未来の保証にならないことを痛感する。
このとき、「自分の価値とは何か」「本当に大切にすべきものは何か」という根本的な問いが心に浮かび上がる。これまで信じてきた枠組みが揺らぐ中で、新たなストーリーを見出し、家族を含めてこれからの人生をどう生きるべきかを再考し、選択する時期に差し掛かる、それがミッドライフクライシス。